2013年08月26日

『 石への想い 』 8  匣底のものたち 1


 ある年 …… 公私共々身辺で訃が続いて、 “ 鬼籍に入った ” 一人には私の実母も含まれて
いました。
それに伴い、亡母の許から回って来たものに祖母の遺品も。

 かの祖母、北関東の田舎の生まれながら、存外富裕な育ちと聞き及びます。
幼時、親は山持ちで、何人もの男衆・使用人を抱える羽振りであったとか。
長女だった祖母は “ お嬢 ” として、乳母日傘で育った由。
けれど、お定まりの凋落譚か …… 後年に上京して後は、裕福とは無縁の結婚生活に甘んじた
ようです。
 そんな中でも彼女は、豊かさの記憶、感性、プライド ―― 想像するに “ 明治女の気骨 ” を
持ち続けたのかもしれません。


 そうした祖母の遺品の一部 ―― 全く “ 金目 ” には当たらぬながら、呉服については叔母たちが
対処したようで。
 一方少しばかりの装身具は、まだ母の存命中に私の目にも触れていました。
例えば古びた髪飾り ―― 形だけ本格的な櫛笄は模造の鼈甲 ?
家紋を彫った “ 銀かんざし ” も全く黒ずみが見えないのは、銀に非ぬ証し。
また、木彫り細工の帯留めの色褪せた菊・牡丹。
が、それはそれ、イミテーションでも華やかそうな和装具です。
脇に控える僅かなアクセサリーの、影を薄く見せていたような。

 即ち二点のみの古いリング ―― ひとつは茶色い縞石。枠は銀と思しき、少々荒い造り。
石の縞模様から所謂 『 虎目石 』 というモノかと推するも、確証はありません。
こうした目利きには、実質門外漢な私。
それに、余りに “ 地味 ” 過ぎ !!
 他方は、小さなソリティア = ひと粒ダイヤの嵌まったマリッジ風。
石は果たして本物 ?
枠には一応プラチナの刻印ながら、あまりに華奢で軽く、存在感薄く …… 。
さらに長らく匣の底に仕舞われ日の目も見ず、石も地金もくすんでいました。
 されど、せっかく縁あって我が手に委ねられたものたち …… やはり疎かには扱えません。
斯くて二点は、お定まりにジュエリー 『 Chiku 』 へ持ち込まれ、リメイクねたとなり
ました。

 ところで、大方はまず “ 古い石ありき ” からスタートしていた私のリメイク ・ コンセプト。
今回は、ひとつ真逆の発想が要ります。
かの華奢なソリティア・リング ―― 生憎 “ 主石 ” がイミテーションと判明してしまい、
「 なぁんだ ! 」 「 やっぱり ? 」。
それでも、戦前の極々庶民の婚礼にあって、甲斐性無しの祖父がまがりなりにリングを用意した
とすれば ? …… 有るだけマシ !

 誇り高かったと聞く祖母の、女の矜持がひたに切ない。ほんの細やかであろうと、このプラチナ
枠に籠められたかもしれぬ “ 誇り ” は、蔑ろにしたくない。
祖母に叶わなかった “ 本物の輝き ” = ダイヤモンド、その輝きを得て初めて、このリングが完結
を見るのではないか ? と私の頭が妄想したのです !!

 さりとてこの余りに細くつましげなプラチナ枠に、相応しい “ 本物の輝き ” があるのかしら ?
その石には、どんなカットを選ぶのか ?
忽ち具体化した課題に、私とマダム幸子さんは忌憚無い意見とアイディアを出し合って。

 結論は極めてシンプルな考え。
「 やはり同じカットの石を嵌め替えるのが、よろしいのでは ? 」
とマダム。
「 カットが変わると台座までいじることになって、工賃もかさみますし。せっかくアンティーク
な可愛い雰囲気を大事になさったら ? 」
私が幾つか出したファンシー・カット案を、さり気なく留どめられたのです。
従って、衒いの無いラウンド・ブリリアントの相応しい石を見繕って貰い、 “ 石合わせ
( 嵌め替え ) ” の発注に至りました。



 日常のせわしさをぬって “ 仕上がり ” を受け取りに向かったのが、夏の初め。
その年も、猛暑の予感された夏。
立ち止まるとどっと吹き出す汗を拭い、 『 Chiku 』 の扉をを開けると、そこは別世界。
エア・カーテンの冷気に遮断された店内の、それならずともクールな暗色を背景に、照明を浴びた
商品の涼しい煌めき !
すっと汗の引く思いで、案内されたカウンター席。

 さて、にこやかなマダムの、手許に披露された完成品 = プラチナ・ダイヤ・リング。
ビロード・トレイの上で、とても小さいけれどソリティアの澄んだ輝き ☆
ご主人の鑑定眼のチョイスなれば、品質にも太鼓判。
 こうして、遙かな祖母の思いを偲ぶプラチナ・リングに、ホンモノの煌めきが灯りました !
またひとつ、私の “ お宝 ” が増えたのです。

 さればこそ、請求書の数字には驚きました。
わずか 0.148 carat の小粒とは言え、一応 “ ダイヤモンド ” 。
その代価は、私の懐にとても優しかった〜〜 !!

 さらに “ 石合わせ ” の工賃 = 技術料をサービス !?
私のような “ 儲からない客 ” に過分な …… 。
「 えー ? そんなァ ! ちゃんと取って下さらなきゃ !! 」
大変恐縮しました。
 が、マダムは穏やかに微笑まれ、
「 よろしいんですよ。いつもご利用頂いてますもの。工賃は僅かですから。その分を次のご注文に
お回しいただければ。どんな宿題を頂くか、その方が楽しみ ! 」
「 え ? … はァ … 」
私はちょっと照れてしまう。
「 本当に色々 “ 素材 ” をお持ちだから、私どももとても勉強になりますわ 」
「 いいぇ〜 、石たちが生き返るのは偏にこちらのお陰ですって !! 」
「 それでは、是非次のご依頼を〜 ! 」

 …… そうして私達は笑い合ったのでした。



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posted by 美緒ママ at 00:42| Comment(0) | 癒やし処 | 更新情報をチェックする
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